第9章 恐怖
そんなに冷える夜ではないけど
風邪を引くと大変だし、私はソファーの方へ足を進めた。
落ちた毛布を拾い、赤井さんの体にかけると
視界に入ってきた彼の寝顔。
鼻が高くてまつ毛も長い…どの角度から見てもイケメン。
…本当に整い過ぎている顔だなぁ。
そんなことを思いながら少しの間寝顔を見つめていると赤井さんが少し身動いだ。
……起こしちゃったかな?
音を立てずにスッと立ち上がると
赤井さんの寝言が聞こえてきた。
「ん……明美……」
……。
明美って……誰…?
まさか…赤井さんの彼女…?
ただの寝言かもしれないけど
明美、と呟いた赤井さんの声は今まで聞いたことがない切なさが込められたような声色で…
その人が赤井さんとどんな関係かは知らないけど
特別に思っているんだなってことが嫌でも分かってしまった。
赤井さんが私ではない女性の名前を口にしただけで
こんなに胸がズキズキと痛み出しちゃうなんて…
私は苦しくなった胸を押さえながら寝室に戻った。
布団の中に潜ってギュッと目を瞑り眠ろうとしても
明美って誰なんだろうという疑問が頭の中でぐるぐると飛び交っていて、その日は結局一睡もできずに朝を迎えてしまった…
赤井さんは朝5時くらいに私の部屋を出て行き
いつもなら朝起きた時、彼がいなくても寂しく感じたりしないのに…
今日はやたら寂しくて
ひょっとして朝から明美って人の所へ行ったのかな…?
なんて考えが思い浮かんでしまい、私の気分は朝からズーンと沈んでいた。