第57章 綺麗
工藤邸に帰って来た私と赤井さん。
特に何もやる事を決めていなかったけど
赤井さんは私がすごく疲れているんだと思い
リビングでのんびりしてろ、と言ってくれて
今はキッチンでコーヒーを淹れてくれている。
帰りの車内でも赤井さんはいつも通りで
私の様子が変だって気づいているのにも関わらず
何かあったのか無理矢理聞いてくる事はしなかった。
…まぁ、もし聞かれても
言えるわけがないんだけどね。
「待たせたな、コーヒー入ったぞ。」
『ありがとう……あれ?』
「どうした?」
『昴さんの変装…解いてよかったの?』
「ああ、今日はもう出掛ける予定はないからな。」
素顔の赤井さんはいつも思うけどすごくカッコよくて
トレードマークのニット帽がよく似合ってる…
この人の素顔は
どれだけ時間が経っても見慣れないなぁ。
「美緒…?大丈夫か?」
『っ、うん、大丈夫…コーヒー頂きます!』
「…。」
本当に私は穂積さんに言われたように赤井さんにゾッコンで、顔を見るだけで好きって気持ちが溢れ出てきちゃう…
恥ずかしさを誤魔化すようにコーヒーを口に含んで心を落ち着かせようとしていると、
私が座っているソファーの隣に赤井さんが移動して来た。
「美緒…何かあったのか?」
『っ、え…?』
「スタジオから帰る時からずっと元気がないままだろう。
…誰かに嫌な事でも言われたのか?」
『ううん…!別に何も言われてないよ!』
むしろ赤井さんが何も言ってくれないから
モヤモヤしてるだけなんだもん…
でも私のドレス姿が『綺麗だった?』なんて
わざわざ言わせるのもなんか違うし…
「俺は…お前の元気がない姿は見たくない。」
『っ…』
「もしそれが俺のせいなら尚更だ。
言いたい事があるならどんな事でも聞く…
だから話してくれないか?」
…赤井さんってやっぱり大人だ。
いつも私の事を真剣に考えてくれて
心配しながら真摯に向き合ってくれる…。
そう考えると自分がいかに情けない大人だと思い知らされる。