第1章 前世
……。
私、本当に死んだのかな?
目を瞑ったままでいるんだけど、今は全然痛みが無い。
ここはもうあの世かな……?
……あの世ってどんなところだろう、と思い目を開けると
私は真っ白い空間の中でぽつん、と佇んでいた。
『ここが…天国なんだ…。』
果てしなく広がる真っ白い空間。
ぼーっとしながら歩いていると
少し先にまるで市役所の窓口のような場所があることに気づいた。
徐々にそこに向かって近づいていくと
本当にそこは何かの窓口みたいで、物柔らかそうなおじさんが椅子に座っていた。
「えー…若山 美緒さんですね。」
『え!?あ、はい……そうです。』
「あなたは年齢30歳、若くして車に轢かれ亡くなりました。
ご愁傷様です。」
『いえ……生きていても辛い現実が待っていただけなので
死んでよかったと思ってます……。』
結婚まで秒読みだと思っていた男に浮気され
住んでいた家にも帰れなくなるし、修羅場になるだろうし…
そんな大変な思いをせず人生を終えることができてホッとした。
「うーん…
でもあなたにはこれから第二の人生を送ってもらう予定なんですよ。」
『は?第二の人生って…なんですか?』
言っている意味がわからなくて
窓口のおじさんに首を傾げながら尋ねた。
「あなたが死んだ世界とはまた別の世界での人生が始まるんです。
もちろん、ちゃんとした人間で0歳からスタートです。」
『……いやいやいや!
そんなドラマみたいなことありえないですって!
私のこと揶揄ってます?』
「揶揄ってませんよ。
普通は人間から人間に生まれ変わることなんてなかなかないんですから。あなたはラッキーな人です。」
…だめだ……この人の言っていることが何一つ理解できない。
料理人になることばかり夢見ていてたから
学問を疎かにしていたツケがこんなところで回ってきた。