第1章 前世
あてもなく走り続けていると、目から涙がポロポロとこぼれ落ちてきた。
現実が受け入れられなくて
ただがむしゃらにあのアパートから逃げるように走る私は
周囲を見る余裕なんて全くなかった。
…だから本当に気が付かなかったんだ。
自分が今、赤信号の横断歩道に突っ込んでいるなんて…
プーッ!!と、車の大きなクラクションの音に気づいた時にはもう遅くて、全身に激しい痛みを感じたと思ったら
私の意識はどこかに飛んでしまったような感覚に陥った。
若山 美緒、30歳。
彼氏の浮気が発覚した日に死亡…。
そんなニュースが世間に流れ、面白おかしくネタにされるのかなと
薄れゆく意識の片隅でそんなことを思った。