第43章 謝意
『あれ…?そういえば榎本さんはどこに?』
店内のどこを見渡してもいないし
キッチンに入ったところから見える従業員用のロッカーのある控室にも彼女の姿は見当たらなかった。
「あぁ、梓さんなら急用ができたと言って帰りましたよ?」
『なっ……!えぇ!?』
ってことは、やっぱり安室さんと2人きり!?
それはやばいよ!赤井さんにバレたら絶対怒られる…!
「心配しなくても何もしませんよ…。
あなたに手を出したらあの男に殺されかねませんから。」
『そ、そんな大袈裟な…』
…いや、赤井さんならひょっとしたら有り得るかも…。
以前も殺す、とか物騒な事ぼやいてたし…
「今日は純粋に美緒さんの手料理を食べたいだけです。
だからそんなに困った顔しないで下さい?」
笑顔でそう言い切った安室さん。
…まぁ、何かされそうになったら大声出して
上の階にある探偵事務所にいるであろう毛利さんに助けを求めればいっか。
『分かりました!
でも半径1メートル以内には近づかないようにして下さいね?』
「はいはい、善処しますよ。」
まだその決め事を出してくるのか、
という顔をしていた安室さんは店内の清掃を始めたので
私はさっそく調理に取り掛かった。
材料を切り、テキパキと調理を進めていると
安室さんが声を掛けてきた。
「ちなみに、今日のメニューを聞いてもいいですか?」
『和食の定番の肉じゃがです。
あとは副菜と汁物も用意しますからね。』
「肉じゃがすごく好きですよ?楽しみです。」
その後は黙々と調理を進め、しばらくすると
安室さんも私のいるキッチンに入ってきた。
「美緒さん、片付け終わったので手伝います。」
『安室さんは座って休んでて下さい。
お仕事で疲れてますよね?コーヒー淹れましたから。』
「え…食事の支度をしながら淹れたんですか?」
『?はい。ドリップコーヒーの道具みたら
久しぶりに淹れたくなってしまって…
良かったらどうぞ。食事の前なので少なめにしましたから。』
安室さんをカウンター席に座らせて
コーヒーカップを出すと、とても驚いた顔をしていた。