第7章 瞞着
そしてある日の放課後。
仕事を早めに終えて帰宅しようと思い外に出ると
もうすぐ日が暮れる時間。
校門を出たところで、私の元に江戸川くんが駆け寄ってきた。
『江戸川くん?
こんな時間にどうしたの?何か忘れ物?』
「先生に聞きたい事があって待ってたんだ。」
ズボンのポケットに両手を突っ込んだまま
私を真っ直ぐ見つめる江戸川くん。
…これって待ち伏せ!?困ったなぁ…。
まぁでも、話をしようと決めていたのに
あのピンポンダッシュの事件の後、ずっと話せないままだったから今がいい機会なのかもしれない。
『私に何を聞きたいのかな?小さな探偵くん?』
「…少し前のことだけど
バスジャック事件の時、どうして僕と灰原を助けたの?」
…え、何その質問。
私教師なんだから生徒を助けようと思ったのは当たり前だと思うんですが。
もはや教師とも思われていないの…?
『どうしてって言われても…
2人がまだバスにいるのかもって思ったら体が勝手に動いてたんだよ?』
「じゃあ質問を変えるね。何で僕達がバスの後ろの窓から飛び出してくるって分かったの?偶然受け止めたにしては出来すぎてるよね?」
…それは前世で聞いた事があるから、
でもそれは言えないやつ。
『本当に偶然だよ?
なんとなく後ろに向かったら2人が飛び出してきて
私自身も驚いたんだもん。
それに…あの時のことはあんまり覚えてないんだ。
私、風邪ひいて熱出してたでしょ?うろ覚えなの。』
「…そっか。じゃあ最後に一つだけ聞かせて?
若山先生って…一体何者なの?」
何者…
なんて答えるのが正解なんだろう。
正直に話すのは違う気がする。
だって彼は日本屈指の高校生探偵だよ?
転生して生まれ変わってこの世界に来たなんて話しても
非現実的過ぎて、絶対理解してもらえないはずだから…。
『私は…ただのどこにでもいる1人の教師だよ。
君が私のことを疑ってるのは何となくわかるけど…
これだけは言っておくね。』
「…。」
『私は……君の味方だから。
それだけは信じて欲しい。』
江戸川くんは何かを言いたそうな顔をしていたけど
私は彼の頭を一度だけ撫でてから歩き出した。