第1章 前世
「あぁんッ!そこっ、気持ちいいっ!」
「お前、ここ突かれるの好きだもんな?」
「あ、んッ…!好きっ!もっとしてぇ!」
ベットのスプリングが軋む音、
卑猥な水音、そして…肌がぶつかり合う音……
それは明らかにヤッてる最中。浮気中…
気持ち悪い音が鳴り響いていて耳を塞ぎたいはずなのに
私は玄関で呆然と立ち尽くしていた。
「ねぇっ、彼女まだ帰ってこないの…?」
「帰る前に連絡しろって言ってあるから大丈夫。」
…そういえばそんな事言われてたっけ。
すっかり忘れてたよ…
あなたの誕生日を祝う事しか頭に無かったから…
「俺の彼女ってさ、そこそこ料理上手いし
まぁ顔は可愛い方なんだけど?
最近一緒にいてもつまんねーんだよなぁ。」
「えー?彼女ひどいね!」
「だろ?お前とは一緒にいて楽しいし、
身体の相性もいいから最高だわ。」
「ふふっ、じゃあもっとしようよ。
ひどい彼女さんの代わりに私があなたを満足させてあげる!」
…なにそれ……
…ひどいって……私が悪いの?
浮気するあなたはひどくないの…?
なんで…?
いつから私のことを裏切ってたの…?
どうして私達の家のベットで
他の女と体を重ねているの……?
結婚するつもりだったのは…私だけだったの…?
頭の中でなんでなんで?と、疑問ばかりが浮かんでくる。
本当は怒鳴り込んで
この部屋から浮気女を追い出すべきなんだろうけど…
私にそんな度胸はない。
だって…今の会話を聞いていたら分かると思うけど
きっと追い出されてしまうのは私の方だ……
彼に言われた事が受け入れられなくて
体が金縛りにあったみたいに動かない……
しかし玄関まで響き渡る女の喘ぎ声や
行為中の音を聞くことに耐えられなくなってきて…
私は先ほどスーパーで買った
食材の入った買い物袋をドサっと落とし、玄関の扉を開けて外に出た。