第36章 補佐
榎本さんが常連のお客さんに電話してくると言って控室に向かって行き、私はその様子を見ながらケーキのデコレーションをしていった。
「美緒さん、
今日は来てくれてありがとうございます。」
『いえいえ。ケーキ作りを手伝わせてもらえるなんて
最高に楽しいですよ!』
レッドベルベットケーキなんて
赤井さんと同じ名前が入ってるし…
安室さんから話を聞いたら無性に作りたくなったんだ。
「…その顔。」
『ん?なんですか?』
「またあの男のことを考えていたんですね。
顔に出てますよ。」
『え…!?』
うそ…!恥ずかしい……!!
安室さんに言われた事が図星なだけに
顔に熱が集まるのを感じた。
「全く…だから赤は嫌いなんですよ。」
『え…ひょっとして
赤井さんの事を思い出すからですか?』
「……いけませんか?」
『い、いえ…』
まさか赤井さんが嫌いだから
赤色まで嫌ってるとは思わなかった…。
安室さんの顔を見ると、少しムスッとしていて顔を顰め、
この人のそんな表情を見るのは初めてだったから…
拗ねた子どもみたいでちょっと可愛らしかった。
『よーし!完成っ!』
「僕の方も出来ました。」
ホール型の二つのレッドベルベットケーキが完成したところで
榎本さんがキッチンに戻ってきた。
「常連のお婆ちゃん、
これからすぐに来て下さるそうですよ!」
『じゃあ2種類のケーキを試食してもらいましょう!
お皿に切り分けますね!』
丁寧にケーキをカットすると
どちらのケーキも赤い色のスポンジがとても可愛らしくて
白と赤の組み合わせはうっとりするくらい綺麗だった。
そして調理に使った道具を洗い片付けていると
常連さんである優しそうな雰囲気のお婆さんがポアロにやってきた。
「いらっしゃいませ!
お婆ちゃんに教えてもらったケーキ、
作ってみたのでご試食お願いします!」
榎本さんがそう声をかけると
お婆さんは嬉しそうに私達の目の前のカウンター席に腰掛けた。
「あらまぁ…二つもあるの?」
『ちょっと作り方を変えているんです。
ぜひ感想を聞かせて下さい!』
榎本さんと安室さんにも切り分けたケーキを渡し
さっそくみんなで頂くことにした。