第34章 水泳
「それも支配人の思惑通りさ。
まさか怪我した本人が犯人だなんて思われないだろうし。」
確かにそうかもしれないけど…
支配人の人はそんな事までしてあの女性を殺したかったっていうの…?
「ちなみに証拠はあるのかね?」
「ああ。
きっとあの釣り糸に支配人の指紋がついてると思うよ。
排水口に残ってた束になった釣り糸を鑑識さんが見つけてたし。」
…世良さんの推理は何もかも的中していたようで
犯人である支配人の人は言い逃れはできないと諦めたのか、殺害した動機を話し始めた。
支配人には歳の離れた妹がいて
その妹夫婦が3歳になる息子の誕生日を祝う為
このホテルのスイートルームに予約を入れたそうだ。
その日はちょうど花火大会の日で
部屋から花火が一望できるととても楽しみにしていたらしい。
「しかし当日、
お嬢様が突然友人とその部屋で花火を見たいと言い出し
妹夫婦達は別のホテルへ移動する羽目になり……
その途中で交通事故に遭って息子共々亡くなりました。」
「そ、そんな…」
「でもそれって逆恨みなんじゃ…?」
「逆恨み?とんでもない。
お嬢様はあの日…結局あの部屋に泊まらなかったんですよ。」
理由を尋ねたところ、その妹夫婦を轢き殺したのは
お嬢様も乗っていた友人の車で…
お嬢様は関わりたくないからと言って
支配人に電話で昼間からこのホテルに泊まっていたことにしてくれと言ってきたらしい。
「…その日以来、ずっと復讐の機会を伺っていました。
まぁ結局、練りに練ったこの殺人計画も若い探偵達に暴かれ
水泡に帰してしまいましたけどね。」
「では、あとは署の方で…」
『っ、あの!』
高木刑事が支配人を連行しようとしたところで
私はどうしても彼に言いたい事があり、声をかけた。