第32章 留学
side 赤井
今日はFBIの作戦会議がある日。
安室くんと会う約束をしている美緒に見送られ
先に工藤邸を出た俺は、某ホテルの一室にいた。
周りにはFBIの仲間達がいて
今後の動き方について打ち合わせを行った。
一通り話し終えたところでブレイクタイムを取ることになり
ブラックのコーヒーを飲んでいると
ジョディが俺の近くにあるテーブルに何かを置いていた。
「たまには甘い物でも摂って脳を休めないとね?
東京で有名な店のカップケーキ買ってきたから
シュウも食べてみて?」
「あぁ…。」
マフィンの形をした生地の上に
クリームでデコレーションされているそのお菓子。
手に取ってそのケーキを見ていると、懐かしい記憶が蘇ってきた。
そういえば以前…
FBIに入ったばかりの時にアメリカでもらったことがあったな…
あの時は確か、ケーキ屋の前を通りかかった時に
高校生くらいの若い日本人の女が男に絡まれてて…
「…っ、嘘だろ…?」
ずっと忘れていたその記憶。
だが…ハッキリと思い出した。
あの時……俺が助けた若い女は……
「シュウ?どうかしたの…?」
「フッ…いや、なんでもない。」
「そんなに嬉しそうな顔してるくせに何言ってるの?
どうせ美緒の事でも考えてたんでしょ!」
「まぁな…それより今日の会議はもう終了したから
俺は先に帰るが…構わないか?」
「えぇ…別にいいけど…」
「また何かあれば連絡してくれ。」
俺はホテルの部屋を出て駐車場に向かい
自分の車に乗り込んだ。
エンジンを掛けたところでスマホが振動し
画面を見ると美緒からのメールだった。
【安室さんとの話は何事もなく無事に終わりました。
自分の家に帰ろうかと思ったんですけど…
工藤邸で待っててもいいですか?】
俺も美緒に会いたいと思っていたから
今から帰る、とだけ返信し、車を工藤邸に向かって走らせた。
そして帰宅する途中…
俺は初めて美緒に会った時のことを思い出していた。