第29章 記憶
みんなと少しの間ラウンジで待っていると
高木刑事が私達の元に来てくれた。
「あっ!高木刑事ー!」
「姉ちゃんは!?」
「会えそうですか?」
「しーっ!静かに!
君達は内緒で入ってきてるんだから…」
子供達が高木刑事に駆け寄ると
以前会った事のある目暮警部さんと他の刑事さんが
銀髪の女性を連れて歩いてきた。
『無理を言ってすみません、警部さん。』
「本来ならば会わせるわけには行きませんが…
彼女も子供達や先生には心を許しているようですからね。
記憶回復の手助けになるかもしれませんし。」
「やったあ!」
「ありがとうございますっ!!」
その後、私達は一緒にオセロゲームをしたり
楽しく話をしたりして過ごしていた。
『もう頭痛は治ったんですか?』
「ええ。もう大丈夫よ…ありがとう。」
『いえ!元気そうで良かったです。』
顔色も良くて、彼女の明るい顔を見てホッとしていると
スーツをきた男性が私達の元へと歩いてきた。
「失礼します。公安の風見です。
そちらにいる女性を速やかに引き渡してもらいたい。」
「なぜだね…?
我々捜査一課にも捜査の権利はあるハズだが?」
目暮警部がそう答えると
風見さん、という公安の刑事さんは目を鋭くし口を開いた。
「その女性は、警察庁に侵入した被疑者だ。
その目的をすぐに聴取しなければならないんですよ。」
「!!っ、…わかった。」
風見さんの言葉に素直に頷いた目暮警部さんは
少し離れた場所で身柄の引き渡し手続きを行なっていた。
「…彼女との面会はこれで終わりです。
先生、子供達を連れて帰って頂けませんか?」
『っ、はい…。わかりました。』
高木刑事にそう言われ
女性も病室に戻るために立ち上がった。
「「お姉さん…!」」
「っ、姉ちゃん…!」
「みんな…わざわざ来てくれて本当にありがとう。
またいつか…みんなで観覧車に乗ろうね。」
『…約束ですよ?絶対乗りましょうね!』
私の言葉にニコッと微笑んでくれた銀髪の女性は
私達に背を向けて病室に向かって歩き出した。
彼女の背中を見ていたらなんだかもう二度と…
この人には会えなくなる…
私はそんな気がしてならなかった。