第5章 偶然
side 赤井
「…またあの女か。」
たまたま歩いていた道の先に
ガラの悪い男2人に絡まれている女教師を見つけた。
見かけるのは今日で3回目。
何の因果か知らないが、偶然にしては出会う確率が高すぎないか?
頭の中でそんなことを考えながら
男達に絡まれている女の元へ近づく。
男に腕を掴まれて、恐怖で顔が歪んでしまった彼女を見たら
他の通行人みたいにスルーすることなど出来ず…
気がつくと歩くスピードを早めていた。
「その女は俺の知り合いなんだが…彼女に何か用か?」
彼女の腕を掴んでいる男に何だか無性にイラついて睨みを利かせると、男達はすぐに手を離し俺の目つきに怯え立ち去って行った。
「大丈夫か?」
『は、はいっ!大丈夫です!
あの…助けて頂きありがとうございました!』
俺に対して頭を下げる女に
大した事はしていない、とだけ告げて
再び歩き出そうとしたが、彼女に声をかけられ足を止めた。
『あの…この前のバスジャック事件の時にも助けて貰ったので
何かお礼をさせて下さい!』
「そんなの気にしなくていい。
大した事はしていないから礼などいらん。」
『!!それでは私の気が済みません!
あ、ちょっとここで待ってて下さい!1分で戻りますから!』
「お、おい…!」
俺の言葉を聞かずに走り去った女は、
戻ってきたらその手には3本の飲み物が抱えられていた。
『何が好きか分からなかったので好きな物とって下さい!
あ、もちろん全部持っていっても大丈夫です!
こんなお礼しか出来なくてすみません…』
…わざわざ走って買ってきたのか?
なぜ見ず知らずの俺にそこまでお礼をしようとするのか分からず呆然としていると、彼女は急にハッとした表情に変わった。
『もしかして全部嫌いでした!?
すみません、すぐに買い直してきます!』
…なぜそういう考えになるんだ。
こいつの思考回路は一体どうなってる。
俺はまた買いに行こうとする彼女を引き留めて
3種類のうちの一つであるブラックの缶コーヒーを掴んだ。