第5章 偶然
『あ、あの…私、若山 美緒って言います。
帝丹小学校で教師やってます。
本当にこの前は助けて頂きありがとうございました。
あなたのお名前も聞いていいですか?』
…本当は知ってるけど
勝手に名前呼んだりしたら何で知ってるのか不審に思われちゃうよね?
人に名前を尋ねる時は自分から名乗るのが礼儀だと小学校でも教えているので、私は彼の返事を待った。
「…赤井秀一だ。ご馳走様。」
『赤井、さん……』
彼は缶コーヒーを飲み終えて、私の目を見ながら自分の名前を名乗った。
何故かは分からないけど、彼の綺麗な翡翠色の瞳を見ると
ドキッと胸が高鳴ったような気がしたけど、それはきっとこの人がイケメンだからだ…と自分に言い聞かせた。
『あ…缶のゴミ捨てておきます。』
「すまない。…じゃあな、美緒。
これからは絡まれないように気をつけろ。」
空になった缶のゴミを私に手渡してから
すぐに歩き出し立ち去った赤井さん。
…。
いやいや、何で下の名前で呼ぶの!?
普通名字で呼ぶものじゃないの!?
別に嫌じゃないけどさ!
急に名前で呼ぶから不覚にもキュンとしたじゃない!
きっと相手が中年のオジサンとか不細工な人とかだったら不快に思うんだろうけど、赤井さんに名前で呼ばれても全く嫌な気持ちにはならなかった。
『…イケメンって罪だなぁ……。』
残り僅かになった缶のジュースをグイッと飲み干した後、
地面に置いていた買い物袋を肩にかけて自宅までの道のりを歩いた。
もう二度と赤井さんに会えないことをなんとなく寂しく思ってしまった私は、そんなことを考えている自分が信じられなくて、何度も首をぶんぶんと横に振りながら自宅に帰ってきた。