第29章 記憶
「うわぁ!すごーい!」
「おっきな観覧車ですねー!」
「早くチケット買いに行こうぜー!」
今日リニューアルオープンしたばかりの東都水族館は
水族館だけでなく世界初の二輪式大観覧車も売りにしている。
子供達3人はチケット売り場に走って行き
私と江戸川くんと灰原さんは彼らの後を歩いてついて行った。
「先生、今日は博士の代わりに来てくれてありがとう。」
『暇してたから大丈夫だよ!
それより、阿笠さんの具合は?1人にしてきて良かったの?』
「気にしなくていいわ。
博士はただの食べ過ぎで自業自得なんだから。」
おお…灰原さん厳しいな…
苦笑いをしながら3人で歩いていると
急に江戸川くんが足を止め、通路のベンチに座っている女性の元に向かい声を掛けていたから
私と灰原さんも彼の後を追った。
「ねぇ、お姉さん大丈夫?
顔汚れてるし怪我もしてるみたいだけど…。」
『ここで誰かと待ち合わせですか?』
私達の質問になかなか答えないその女性は
銀髪で左右の目の色が違うオッドアイが特徴的なとても綺麗な人だった。
「お姉さんはいつからここに?」
「えっと…」
「じゃあ、どこから来たの?」
「……分からない。」
『っ、え!?』
彼女のその言葉で私達3人は顔を見合わせた。
この人は……
たぶん記憶が無いんだと分かったから…。
そして江戸川くんは彼女の側に置いてあった壊れたスマホと
細かなガラス片、そして彼女からガソリンの匂いが香ったことから、恐らく車の事故に遭い、頭をぶつけて記憶を失ってしまったのだと推理していた。
そんな時、チケットを買いに行っていた3人が戻ってきて
その女性が記憶喪失だと知ると記憶を取り戻す手伝いをすると意気込んでいた。
『でも…
こういう事って警察に知らせた方がいいんじゃ…?』
「っ、それはやめて!!」
『え…?何か警察に行けないわけでもあるんですか…?』
「いえ…そういうわけじゃ…ないと思うけど…」
急に声を上げた女性に驚いていると
円谷くんが女性の手を引っ張り、吉田さんと小嶋くんも一緒にエントランスの方へ走って行ってしまった。