第29章 記憶
「っ、赤井……貴様…!」
ライフルを持った俺を睨む彼が
俺の方へと一歩足を進めたところで、遠くからサイレンの音が聞こえてきた。
音の方に顔を向けるとパトカーの赤いランプが近づいてきて
安室くんは俺の方を睨みつつ、車の方へと戻り
すぐに車を発進させ去って行った。
彼が去ってからすぐにスマホを取り出し
上司であるジェイムズに電話をかけた。
「…私だ。」
「取り逃しました。後始末を頼みます。」
「分かった。君はすぐにその場を離れるんだ。」
「了解。」
電話を切ってからすぐマスタングに乗り込み、車を発進させた。
首都高を降り、適当な場所で車を停め
俺は先程取り逃した女の工作員の事を思い出していた。
「あの女は確かラムの腹心で…
コードネームはキュラソー…だったよな…」
俺の推測通りに
警察庁から本当にあのデータが盗まれていたとしたら…
かなり厄介な事になる。
「こんな事がなければ今頃…
美緒と家で過ごすはずだったんだがな…」
名前を口にしただけで
工藤邸で俺を見送ってくれたあいつの顔が頭に浮かんだ。
…今回の事件のカタがつくまで美緒とは会えない。
今頃美緒はきっと…
ライフルバックを背負って家を出た俺のことを気にして不安になっているかもしれない…
そう考えると、無意識に手がスマホに伸びていて
あいつの電話番号を押し、発信させていた。
…するとたったのワンコールで電話に出る音がして
あまりの早さに驚いたが、美緒の声を聞くだけで気分が癒された。