第26章 授業
パン作りの講師である2人が来る時間の少し前、
私はその人達を迎えに行くため職員玄関の前で待っていた。
そして時間通りにやってきたのは1人の女性と男性で…
『!!な、なんで!?』
女性は初めて見る人だったけど…
男性の方は、これまでに3度会ったことのある
金髪のイケメン不審者だった。
ど、どうしよう…!
今日は江戸川くんはいないし
赤井さんに連絡した方がいいかな…?
私が驚いている間に2人は私の元へと近づき声をかけて来た。
「初めまして、喫茶ポアロの榎本梓です。」
「同じく安室透です。よろしくお願いします。」
『あ…えっと…今日はよろしくお願いします。
小林の代理で出席することになった若山 美緒です。』
ペコっと頭を下げ、金髪の人の顔を見ると
私の方を見てずっとニコニコしていた。
……なんだかその笑顔はすごく不気味で
小林先生の代役を引き受けてしまった事を後悔した。
この男が来るって分かってたら絶対断ってたのにー!!
心の中で叫びを上げた後、
私は生徒達が待っている家庭科室まで2人を案内した。
そして
生徒達にも講師である2人を紹介しパン教室が始まった。
「では今から一次発酵を済ませたパンの生地をみんなに配ります。好きな形にこねてみて下さいね。」
手分けして子供達に生地を配り、私は一生懸命パンをこねている生徒達を順番に見て回った。
赤井さんが組織の人間だと言っていた安室さんのことも
何度かチラチラと見ていたけど…
子供達に優しく教えている姿を見ると
とても悪い人には見えなくて
とりあえずパン教室の間は、あの人のことは気にしないことにした。
パン教室は順調に進み、今は二次発酵をさせているところ。
生徒達が調理道具などの洗い物をしている時
講師の2人が揃って困った顔をしていることに気づいた。
「安室さん、この余ったパン生地どうしましょう…」
「そうですね…捨てるのは勿体無いですし。」
2人が見つめているパンの生地を覗くと
ボウルの中には発酵させすぎてかなり膨らんでいるパン生地が残っていた。