第19章 亡霊
『もう!酷いですよ昴さん!
お礼なんていらなかったのに!!』
「ははっ、そんなに怒らないで下さい。
僕は美緒さんの喜ぶ顔が見たかったんですよ。」
『喜んでます、本当にすっごく喜んでます……
でもなんか素直には喜べないです。』
いくら私が受け取らないと思ったからって
騙されていたんだと思うと悔しい。
一生懸命他の女性の為に時計を選んでいた私って
すごく馬鹿みたいじゃないか。
…昴さんはどんな気持ちで私を見ていたんだろう。
きっと心の中で笑っていたに違いない。
『…ここのお茶代は私が出しますからね。』
「それで美緒さんの機嫌が治るなら…
まぁ良いでしょう。」
それから私達は時計が出来上がるまでお茶をしながら時間を潰した。
今度の料理教室で何を作ろうか、とか
この前読んだ小説の話とか他愛ない話だけど
外でこんなに話をするのは初めてで…
本当に恋人同士のようなデートをしている気分になり
あっという間に1時間経っていた。
「さて…そろそろ出来上がった頃ですし、取りに行って来ますね。」
『私も一緒に行きますよ?』
「大丈夫ですよ。すぐに戻ってきますから美緒さんはここで待ってて下さい。」
『そうですか…?じゃあ…お願いします。』
昴さんは私に笑顔を向けてから喫茶店を出て行き、
その間私はスマホを取り出してネットサーフィンをしていると
誰かが私の元へと近づいて来た。
「美緒じゃない!
こんなところでどうしたの?」
『え…!?ジョディさんっ!お久しぶりです!』
顔を向けるとそばにジョディさんともう1人…
大柄で強面の男性が立っていた。
「ジョディさん、こちらの方は?」
「私の友人の美緒よ。
ほら、コナン君が通う帝丹小学校で教師やってるって前に少し話したでしょ?
美緒、彼はキャメル。私と同じ職場の同僚なの。」
『初めまして、若山 美緒です。』
「美緒さん……あ!ひょっとして赤井さんの!」
悪気はないんだろうけど、久しぶりに赤井さんの名前を他の人から聞き、私達の空気が暗いものに変わってしまった。