第18章 釣魚
「お嬢様のレギュレーターを使って咥えた時についちゃったんだよね?」
『そっか…!口紅って手で拭っただけじゃ
簡単には取れないから…』
きっと金持ちのお嬢様なら
長持ちするいい口紅を使ってたはずだし。
「しかし変わった人だな…
口紅をつけたままダイビングするなんて。」
漁師さんの言葉に同感していると
それはわざとだ、と1人の男性が教えてくれた。
なんでもその男性は
以前間違えて彼女のレギュレーターを使った事があるらしく、その時男性の口元に口紅がべっとり付き、それがあまりにも面白かったから毎回口紅を付けていたらとのこと。
そして青里さんの殺人の動機は
彼らの友人だった1人の男性がお嬢様に見殺しにされたことへの復讐。
以前ダイビングをしていた時、被害者の女性が潮に流されてしまい助けに行ったその男性が水死体となって発見された。
救助されたお嬢様はその人に会わなかったと言ってたらしいけど、後で見たかった男性のレギュレーターには
口紅がベットリと付いていたらしい…
「あの女は…助けに来たアイツのことなんか全く気にせずに
自分が助かればそれで良かったんだよ!!
だからこの一角岩に置き去りにしてやったんだ。
…まぁ、お前らにも同じ目に遭って貰うがな。」
『っ、吉田さん!!』
「歩美ちゃん!」
犯人の青里さんは隠し持っていたナイフを取り出し
近くにいた吉田さんを抱き上げ人質にし高跳びするつもりだと言っていた。
『やめて下さい!その子は…私の大事な生徒の1人なの!
人質なら私がなりますから!』
「うるせぇ!人質は交換しねぇぞ!大人しくしてろ!」
そんな…このままだと吉田さんが…
青里さんは警部さんと漁師さんに
船を一角岩から遠ざけるよう命令し、クルーザーを使って逃げるつもりのようだ。
『いや…っ…吉田さん…!』
どうしよう…
本当に吉田さんが連れていかれちゃう…
彼女の身を案じている時、後ろにいた昴さんが私の肩を掴んだ。
「美緒さん…下がっていてください。」
『っ、え…?』
昴さんは私の前に立ってから
少しずつ犯人との距離を詰めていった。
…その時の昴さんの背中は
以前私を助けるためにストーカーと向き合っていた時の
逞しくて頼りになる後ろ姿にそっくりだった。