第16章 料理
頭の中で悩みながら美味しい紅茶を味わっていると
沖矢さんが私にお願いがあると言ってきた。
「実は私、最近一人暮らしを始めたばかりでして…
少々料理が苦手なので是非美緒さんに教えて頂きたいんですが…」
『えぇ!?』
教える?私が?沖矢さんに?
…いやいや、今の時代なんでもネットで調べれるし
私なんかが教えなくても工学部の大学院通ってるくらい頭いいなら、料理のコツだってすぐに掴めるでしょ。
「あなたの時間がある時だけでいいんです。」
『でも…私なんかでいいんですか?』
「美緒さんがいいんです。」
そんな言い方されると断れないじゃない!
分かってて言ってるの!?
「もちろん材料費や指導料の代金はお支払いしますよ。」
『!?いりませんよそんなの!
もし受け取ったら教師クビになります!』
「ですが何のお礼もしないのは悪いですし…」
真面目な顔して悩んでる沖矢さん。
…ていうかお金出すくらいなら料理教室通えばいいのに!
『お礼なんて…いりませんよ。
沖矢さんの料理の腕が上がってくれればそれでいいです。』
「ふっ、美緒さんは優しい方ですね…
では金銭以外で何かお礼を考えておきます。
それで…次はいつ会えますか?」
『え…、えーっと…』
次から次へと話が進んでいくなぁ…。
完全に沖矢さんのペースに乗せられている気がする。
「すみません。
また美緒さんに会えるのが嬉しくてつい…
少々舞い上がってしまいました。」
『!?』
この人…天然タラシなの!?
不覚にもドキッとしちゃったじゃない…!
同じ左利きでも赤井さんと全然違う…!
って赤井さんと比べるなんて、沖矢さんに失礼すぎる!
『次は…来週の土曜日なら空いてます。』
「分かりました。よろしくお願いしますね。」
知り合ったばかりの男の人に料理を教える羽目になるなんて…
まぁ料理するのは好きだからいいんだけど…
結局その後は沖矢さんと他愛無い話をして
美味しい紅茶を飲み終わってから帰宅した。
そしていつもと同じような日々を過ごしていると
あっという間に1週間が経ち料理教室の日を迎えた。