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ユメモノガタリ

第1章 1


舞台は大成功のうちに幕を下ろす。
その綺麗な瞳に涙を宿し、満面の笑みを浮かべた下野さんが舞台袖へと戻って来るのを、わたしは遠く離れた場所から見守った。
よかった、おめでとうと心の中で拍手を送りつつ、離れたところから見ることしかできないこの距離感に彼は手の届かない人物なんだと実感する。


その後、地道な後片付けを終え、会場を後にしたのは、もう真夜中を回っていた。
下野さんは・・・打ち上げにでも行ったのだろうか・・・。
一緒に仕事をしていたこの3ヶ月・・・。
なんて充実した、幸せな時間だったのか。
もう・・・明日からは会うこともない。
幸せな時間をありがとう・・・。

そんなことを考えながら会場の裏手、搬入口から外へ出る。
真夜中とはいえ、まだまだ蒸し暑いムアッとした空気がわたしを包み込んだ。
と。
電灯もない薄暗い道端で人影が動く。
わたしはビクッとして足を止めた。

無言のまま一歩二歩とわたしに近づいて来る人影に、わたしも一歩二歩と後ずさる。

「ちゃん」

黒い影がわたしを呼んだ。
その大好きな声に、わたしは目を丸くして立ち止まった。

「下野さん!?」
「ごめん、脅かしちゃった?」
「びっくりしましたよ、こんなところで・・・」
「ごめん、ごめん」

下野さんが申し訳なさそうに苦笑を浮かべてわたしに歩み寄ってきた。
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