第5章 ピンチ…かもしれない。
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声がした方を向くと、そこには保健医の黒崎陵(くろさきりょう)先生がにこにこしながら俺たちを見ていた。
「あ、く、黒崎先生、決してイチャイチャしているわけじゃなくて…」
「ははっ、わかってますよ。それよりもうすぐ下校時間ですし、吉野先生は今日この後僕との約束、覚えてます?」
俺より少し年上の保健医の黒崎先生は、臨時教員の俺をなにかと気にかけてくれて、この間保健室の物を勝手に使ってあおに処置してもらったことも快く許してくれて。
今日も臨時教員として頑張っているご褒美にと、食事に行く約束をしていた。
「もちろん覚えてますよ。黒崎先生と食事行くの楽しみにしてたんですから」
「それは光栄です」
そう言って黒崎先生は、生徒からも慕われている要因のひとつであろう優しい笑顔で微笑む。
「それじゃあ後で。高山も吉野先生をあんまり困らせるなよ」
じゃあ、と手を上げて黒崎先生が教室を出ていった。
「な、朔ちゃん、黒崎と飯行くの?」
「そうだよ。もう下校時間だし俺も一旦帰ってから出るから、課題は持って帰ってやってこいよ。休み明けに提出な」
「俺も朔ちゃんと飲みに行きたいっ!」
「アホか。未成年が何言ってんだ。でも、あおが大人になったら飲みに行こうな」
そう約束してやれば、あおが俺に指切りを求めるから、仕方なく小指を絡めて指切りをしてやった。
「ふふっ、意外と可愛いなおまえ」
「うるさいっ、約束は絶対だからね」
「わかったよ」
なんとかあおの機嫌をとって、ようやく一日が終わる。
俺は黒崎先生を待たすわけにはいかないと、急いで学校を後にした。