第5章 ピンチ…かもしれない。
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「すいません、少し遅れてしまって」
タクシーで乗り付け、黒崎先生と駅前で落ち合って近場の居酒屋に入店した。
「では、お疲れ様です」
カチンとグラスを鳴らして、久しぶりにアルコールを身体に流し込む。
久しぶりのアルコールは身体にしみて。
「ははっ、吉野先生美味そうに飲みますね」
黒崎先生に笑われてしまった。
それからは他愛もない話や学校での話。
黒崎先生は聞き上手で話しも楽しくて、すっかり気分も良くなってしまった俺は、自分のアルコールの許容量をいつの間にか越えていたらしい。
「吉野先生、飲みすぎでは?」
そんな黒崎先生の優しい忠告も聞き耳持たず、俺はすっかり酔っぱらってしまった挙げ句にテーブルに突っ伏してしまった。
おぼろげに『仕方ないな…』という声と、肩を支えられて立ち上がらせられた感覚は覚えている。
次にぼんやりと意識が浮上してうっすら目を開けると、見知らぬ部屋の玄関のようだった。
「吉野先生、大丈夫ですか?」
「…こ、こは?」
「あ、すみません、吉野先生が酔ってしまって気分が悪そうだったので、近くのホテルで休ませようと…」
そこで初めて、俺は黒崎先生の肩に腕を回した状態で支えられて立っていることに気付く。
「っ、あっ、黒崎先生、すみませんっ」
黒崎先生から離れようとしたとたん、身体がふらついて壁にもたれ掛かってしまった。
「まだ無理しないでくださいよ…全部俺に任せて……」
「え?」
「あ、いえ、まだふらついているみたいですし、せっかくですから少し休んで帰りますか?」
ありがたい申し出だけど、これ以上黒崎先生に迷惑をかけるわけにはいかない。
「いや、俺はタクシー拾って帰りま……」
ドンッ。
俺の言葉を遮って、黒崎先生が壁に手をついた。
「…黒崎…先生?」
ニヤリと口角を上げた黒崎先生が俺をじっと見つめる。
「ふふ…僕と楽しみませんか」
楽し…む?
「…吉野先生、Kneel(ニール/跪け) 」