第4章 保健室の告白。
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「ま、待てっ、ここは学校、おまえは生徒、俺は先生…わ、わかるよな?」
俺は渾身の力を込めてあおから顔を背ける。
「大丈夫、誰も見てないよ、ね?」
耳元に寄せられたあおの口からささやかれた懇願するその声に、気持ちが揺ら…
いやいやダメだ。
いや、ダメというか、よく考えたら俺はおまえのことほとんど覚えていなかったんだから、ほぼほぼ今日が初対面みたいなもんだ。
そんな初対面の男と、ましてや学校で、生徒と教師という立場でそんなことをしてしまうなんて……
俺は平穏無事に日々過ごしたいんだ。
「だ、絶対ダメだ……っ」
俺は目をギュッと閉じてあおのCommandにどうにか抗っていた。
「そんな抗ってたら、Sub drop(サブドロップ)しちゃうよ?も~、じゃあここでいいから…」
チラリと薄目を開けてあおを見やれば、俺に向けた頬を人差し指でトントンとたたく。
「朔ちゃん……Kiss」
「…っ」
このままあおにキスすれば、Commandを使ったPlayが成立して少しは身体が楽になるかも…
そう考えたとたん、二回目のCommandに俺の本能が身体を動かす。
俺は差し出されたあおの頬に、チュッと一瞬触れるだけのキスをした。
数秒の沈黙の後、恐る恐る見やったあおはとても嬉しそうに顔を綻ばせて。
「朔ちゃんありがとう、嬉し…」
そう言って俺をその腕の中にぎゅうっと抱きしめた。
……感謝されたのなんて初めてだ。
あおの腕の中で高鳴る鼓動を自覚しながら、心地よい安心感に包まれていた。