第60章 五/夏/七/甚/直 妊娠しないと出れない電車最終章 五条悟
浴室の車両から帰ると、五条先輩は離れたくないと狭いロングシート式の座席で重なって寝ることにした。
人の上に寝る抵抗感を感じるも、五条先輩は寝付くのが早いのか、それとも昨日のこともあって体を休めていなかったのか、寝息を立てるのが早かった。
規則正しい寝息、規則正しい心拍音、フィットする体に居心地の良さを感じながら、わたしもすっかり意識を落としていたらしく…、目を覚ますと太陽の光を感じる。
「…あ…っ」
…戻ってきている。
太陽の光だけではない。
人工的ではない外の空気の流れを感じ、手には一口だけかじったチュロスを持っている。
「あれっ?みょうじ、どうしたの?疲れちゃった?」
へたっと地面に座り込むと灰原くんが心配そうに目線の高さを合わせてくる。
「…はいばら…くん…、っ、灰原くんだっ!」
「???」
味違いのチュロスを持っている灰原くんはわたしのテンションについてこられず、困惑している。
とっさに七海くんがいた方向に目をやると戸惑った顔色が伺え、安堵するのも束の間、ピピピッと携帯が鳴った。
「夏油先輩からだ…」
先輩は先輩でも五条先輩だと期待してしまった自分が恥ずかしくなる。
やっぱりこういう時、真っ先に心配してくれるのは夏油先輩なんだ。