第59章 五/夏/七/甚/直 妊娠しないと出れない電車-玖-
「ふふっ、全部メニュー覚えてるの?すごいね」
笑ったら涙腺がまた緩んで手で拭う。
「大したことないですよ。もう一度言いましょうか?」
「じゃあ、うどんにしようかな。重たいの頼んじゃってごめんね」
「いいですよ。少し待っていてください」
辺りを見渡すと、どうやら一両目には七海くん以外にいないみたいだ。
何だかそう思うとホッとする自分がいる。
一線を越えてからどうも喉がつかえた感じになる。
先輩の中でも夏油先輩は特に親しかったからなおさら感じてしまう。
七海くんが持ってきてくれたうどんをすすり、半分ほど食べてから聞いてみる。
「…直哉くん…無事、なの…?」
名前を出した瞬間、七海くんがピクっと眉間にシワを寄せたが平静を正して答えてくれる。
「顔は腫れていますが生きてますよ。あれから丸一日は経っていませんが、夕刻あたりだと五条さんが言っていました」
「そっか…」
ひとまず誰も死んでいなくて良かった。
伏黒さんのような大人の人がいてくれて良かった。
まさか直哉くんからも想われているとは思わず、すべては自分が引き起こした軽率な行動をしたせいで危うく先輩達を犯罪者にしてしまうところだった。
引き金は何であれ、皆には謝らなきゃならない。
「…七海くん」
「はい」
「皆のこと呼んできてくれないかな」
七海くんの表情がこわばる。
気持ちはわかる。きっと会わせたくないんだ。