第59章 五/夏/七/甚/直 妊娠しないと出れない電車-玖-
「…禪院くんも、ですか?」
うん、と頷くと七海くんはすぐには立ち上がってくれなかった。
長い沈黙が流れ、わたしの覚悟を感じ取ったのかもしれない。
「私が口出しすることではありませんが気負う必要はありません」
「!…」
七海くんが見つめる瞳には優しさがこもっている。
瞳の奥まで見つめ合うと、どこか冷めない熱っぽさも持ち合わせた目で言葉を続ける。
「最後に誰を選ぼうと貴女の気持ちを尊重します。貴女は私の大切な仲間であり、友人であり…、心から好きになった女性ですから」
「…ぅん、ありがと。七海くん」
七海くんみたいな友達がいてくれて良かった。
好きな人に同じことをされたら、私だったらこんな言葉出てこない。
そして、うやむやにしていた答えを出すことを決め、一両目に全員呼んでもらう。
向こうも少し緊張した面持ちだった。
「…好きだと告白してくれたのに尻軽な真似をしてごめんなさい。薬飲んでハッキリしない気持ちを誤魔化していましたが…、わたし決めました。もう好きな人としかセックスしないって」
何もかもわたしの未熟さが原因だ。
気絶しても抱かれ続けたのにそれでも妊娠しない罪な体。
目の前に現れた人達も、扉を開閉する仕組みも、妊娠しないと出れない電車も、何もかもわたしのせいでこの電車は動いている。
「わたしの好きな人は…」
-続-
次の章から「妊娠しないと出れない電車」最終章となります。これまで一人を除いて複数のキャラクターと肉体関係を持ちましたが、最終章は各キャラクターとハッピーエンドを迎えます。