第58章 五/夏/七/甚/直 妊娠しないと出れない電車-捌-
「…なまえ」
「夏油先輩…」
やつれた顔をした夏油先輩がわたしを見る。
全部わたしのせいだ。
もう大丈夫だよ。助けてくれてありがとう、と夏油先輩の頬を撫でようとしたら押し付けられるように五条先輩の胸の中におさまる。
一瞬しか感じられなかったがあれは殺気だ。
夏油先輩は直哉くんを追って三両目に姿を消してしまう。
「五条先輩…っ」
「思ったより元気そうだな」
それとは真逆に五条先輩はヘラッとした顔を見せる。
怒り狂っている夏油先輩に気付かないはずがないのに何故こんなに飄々としているのだろうか。
いま一度直哉くんの身に起こることを想像し、血の気が引いていくと五条先輩が口を開く。
「…俺も怒ってるよ。けど今回は傑に譲った」
「じゃなくてっ…、止めてください!!夏油先輩のこと!!」
「は?なんで?」
怒っている、だから殴っていいは間違っている。
夏油先輩は本気だ。
最強と謳われる五条先輩と呪力なしでやり合ったら互角。
そんな人が直哉くんと本気でやり合ったら、半殺しで済むかどうかも怪しくなる。
「直哉くんのこと殺さないでくださいっ!!わたしは大丈夫ですから、怒りに任せて人を殺さないで…っ」
夏油先輩を止められるのは五条先輩しかいない。
早くしないと手遅れになってしまう。
「お前…、アイツに何されたか…」