第57章 五/夏/七/甚/直 妊娠しないと出れない電車-漆-
「ふ、っくぅぅう…♡」
椅子の上にまともに座っていられない。
ジョッキを抱いたまま壁に寄りかかり、息をするだけでもくすぐったい。
何もできずにいると直哉くんが近くにやって来た。
「ククッ、ちゃんとお客さん呼べた?」
「…は…はぃ…♡」
「お利口さんやね。焦点合ってへんけど。んで僕にしてほしいことある?」
直哉くんが近くにいる。
もう少し近くに来てくれたら掴めそうなのに、不安定なまま手を伸ばすと椅子から落ちそうな気もする。
「妊娠…させてほしい…れす…♡」
「妊娠じゃなくて他の言い方あるやろ。もっといやらしく言わんと」
もっといやらしく?
確かに「妊娠」だけではいやらしい意味には考えにくいかもしれない。
「な…ナカに…」
「あ?」
「中に…直哉くんの精子、…いっぱい…ドクドク…して、くらしゃい…?」
「なんで疑問形や」
それはいやらしい誘い文句がわからないからだ。
気持ちいいことを思い出して文字にしたのだが、言ってる途中からわからなくなる。