第57章 五/夏/七/甚/直 妊娠しないと出れない電車-漆-
“口で話せ。わかる”
五条先輩は読唇術がわかるとジェスチャーをする。
もう一度後ろを振り向くと、やはり直哉くんの動く気配はない。
黙っていたら状況を悪化させるだけだ。
自分の置かれている状況を説明しなければ先輩達の心配がさらに大きくなってしまう。
“椅子から降りたら首を絞められる。直哉くんは見られないと興奮しないみたいで、わたしはそれを嫌がりました。何でもする、というかわりに見えない場所でとお願いしたら、このビールジョッキを渡されました”
五条先輩と夏油先輩は同じように眉間にシワを寄せ、こめかみに血管を浮かべている。
…ちゃんと伝わったのか不安だ。
けれども先輩達の顔を見られて安心した。
どちらにしてもわたしがジョッキを空にしないと直哉くんは最後までしてくれない。
“先輩、お願いします。今度は最後まで見てください”
ジョッキを口元に運ぶと夏油先輩が「飲んではダメだ!」と叫んだ気がした。
これは大量の甘い毒だ。
全部飲んでも大丈夫。
わたしを助けてくれる頼りになる先輩達がいるから。
どんなにおかしくなっても必ず助けてくれるって信じている。
何度か休みながら発情する前に体に流し込み、最後のひと口を飲み終わる頃には体がグラグラし、体の奥底から気分が高まってくる。