第9章 夏油傑 記憶喪失
「君にとって、私はどんな人間だった?」
「うーんとね、強くて格好良くて…優しい人!」
「そうか。君にそう思われているのなら光栄だな」
とても抽象的な肖像だけど、
傑が大切にしている気風だと感じている。
「ここが私の部屋かい?」
「そうだよ。わたしの部屋はお隣りさんで、硝子はタバコ吸うからずっと向こうの部屋、悟はあれでも名家の当主だからもっと向こうのお屋敷暮らし」
「部屋割りは自分たちで決めたの?」
「いや、学校側が勝手に…」
空き部屋はたくさんあるのだが特に不満もなかった。
入学当初はだらしない姿を見せたくなくて、
毎日寝癖をなおしてから洗面所に向かっていたけれど。
「あ、そうだ!窓から見るお庭も素敵なんだよっ!
あんまり手のかからない花をふたりで咲かせようって…
…傑?」
傑が急に黙ってしまった。
なにか思い出したのかと心臓がバクバクする。
「私達は…なにもない同級生だったのかな…」
苦しげな面持ちで胸を押さえる傑。
「君の声が聞こえるたびに
私の心臓はひどく締め付けられる。
あの男が本命というのなら…教えてくれないか?」