第9章 夏油傑 記憶喪失
「つい最近まで悟と同じ同級生だったんだよ…?
付き合ってまだ一週間だし…」
「期間なんて関係ねぇよ。
それとも傑を捨てて、俺に乗り換えたくなった?」
「ふざけないで」
弱音を吐いた相手を間違えた。
一目惚れだったけどずっと我慢して、一年間実力をつけて死ななければ告白しようと決意した。
そしてようやく想いを伝えたのに…
「…行ってくる!」
うじうじ悩んでも仕方がない。
一番困っているのは傑本人なのだ。
少し冷静になればわかることなのに自分の気持ちを優先していた。
医務室に戻るも姿はなく、部屋や教室に行ってみるもどこにもいない。
諦めかけた時、並木の緑を眺める傑を見つける。
「…広い学校だね。手がかりがないかと自分の部屋に行こうにも人がいなくて迷ってしまった」
眉尻を下げた笑みで話す傑。
今一番近くにいるべきなのは自分なんだと気持ちを奮い立たせる。
「道案内なら任せて!記憶探しに付き合うよ!」
「ありがとう」
稽古場や体育館、教室を案内しながら、そこであった出来事なんかを付け加える。