第9章 夏油傑 記憶喪失
体中の血液が傑の記憶を呼び覚まそうとしている。
わたしが一歩踏み出すと傑は一歩後ずさる。
その感情に名前を付けなければ何も分かち合えない。
「すぐ否定できなくてごめんなさい。
傑を余計に混乱させると思ったら言い出せなくて…」
「それじゃあ…」
「うん。わたしは傑の彼女だよ」
一気に距離が縮まった。
傑の腕の中にぎゅうっと閉じ込められている。
「…思い出したの…?」
「いや…すまない。まだ思い出すことはできないが
君を…、なまえを抱き締めたくてたまらないんだ」
堰を切ったように涙があふれ出る。
どちらともなく唇が触れ、
初めて口付けを交わした黄昏時を思い出す。
「君をもっと感じたい…。
なまえ、抱かせてくれないか?」
「…!」
熱を帯びた眼差しで求めてくる。
まだわたしたちは一線を越えていない。
だけど、傑と同じ気持ちだったから。
「綺麗だよ…なまえ」
ベッドに押し倒されながら興奮が高まる情熱的なキス。
生まれたままの姿で抱き合い、
刺激が強すぎて目元が潤んでしまう。