第57章 五/夏/七/甚/直 妊娠しないと出れない電車-漆-
「っ…!!」
先客がいたのではない。
入る前に誰もいないことを確認している。
調理スペースの死角もあるが、まさかそんなところで寝てる人はいないだろうし、一両目の扉を開けて入ってきたのは直哉くんだった。
「…ご、ごめんなさい…」
「なんで謝るん?」
…何となく直哉くんは一番遠ざけていた存在。
先輩達が敵意を向けるように、伏黒さんが「直哉と二人きりになったら何されるかわかんねぇぞ」と信憑性を高めたように、自然とわたし自身も意識的に直哉くんの居場所を確認するようになっていた。
「起こしちゃった、と…思い…まして…」
二両目に近い座席シートに寝ていたのは伏黒さんと直哉くん。
横切った時に起してしまったのかと思い、謝罪の言葉が出ただけだ。
「何をそんなに怯えるん?君、呪霊と闘っとるんやろ?」
「…は、…はい…」
「少し話でもせぇへん?」
「…」
何となく嫌な雰囲気がする。
なんで直哉くんは追いかけてきたんだろう。
全身を舐めまわすように見てくる薄ら笑いが…怖い。
「…お水、飲みにきただけなので…」