第9章 夏油傑 記憶喪失
医務室で目を覚ました傑は、
高専に入学してからの記憶を綺麗さっぱりなくしていた。
「まあ思い出せねぇなら仕方ねぇけど、
…コイツ。俺の女だから手出さないでね」
「!?」
肩に手を乗せてきた悟はいい加減なことをいう。
けれど、傑の表情を見逃さない真剣な眼差しを送っており揺さぶりをかけたのだと察する。
「じゃあそう言うことだからよろしくー」
そう言って、悟は軽やかに医務室を後にする。
わたしはショックのあまり口がきけなかった。
気まずい沈黙に耐えかねて目線を動かすと、
傑はまるで他人を見る目でわたしを見ている。
「っ…」
涙が込み上げる前に後ろを向き、走り去る。
その先にまだ近くを歩いていた悟の背中を見つける。
「悟っ…!」
「あ?なんで俺んとこ来てんの」
「悟がへんなこと言うから…!」
「そんなのすぐ否定すりゃいいだろ」
あの場でなにも言えなかったのには訳がある。
悟が知らないはずないのに…。