第56章 五/夏/七/甚/直 妊娠しないと出れない電車-陸-
「ん?どうしたん…」
わたしが目を向ける方向に夏油先輩も見れば、五条先輩もつられて自分の目を疑う。
「七海のやつ。何一人で遊んでんだ?」
「いや、彼はそういうタイプではないと思うんだが…」
五条先輩がおそるおそる車両扉に手をかける。
七海くんがトイレに向かう時は確かに開いたはずなのに、その扉はピクリともしない。
「七海。よくもやってくれたな!」
扉に向かって吠えるも五条先輩の声は七海くんには届いていない。
七海くんは眉間のシワを深くして口を動かしたが伏黒さんや直哉くんが異変に気付いたことを知り、瞬時に口をつむぐ。
「チッ。言ってること違ぇじゃねぇか」
「私のミスだ…。二人以上でも分断されるとは…」
どうして?
どうしてこの電車は嫌がらせばかりしてくるの?
「先輩のミスじゃないです。わたしが、妊娠しないからこんなことに…」
すべてはわたしのせいなのだ。
あんなすごい量の精子を注がれているのに受精してくれないこの体が悪い。
やっぱり直哉くんの言う通りわたしの体液が腐って…
「なまえ。妊娠する気はあるんだね?」