第56章 五/夏/七/甚/直 妊娠しないと出れない電車-陸-
「七海。お前も妬いてんの?」
扉を手にかけた七海くんはピタリと止まる。
振り向いた七海くんは煽った五条先輩ではなくわたしの目を捉え、何とも切ない表情を向けてくる。
「…そうですね。私も異性の一人ですから」
「!!…」
突然、七海くんから異性を強調されてドキッとする。
同級生ではなく異性として嫉妬されている。
それじゃあまるで遠回しの告白をされているような…
「あー…マジか」
「自分で踏み抜いておいて言うなよ…」
七海くんがお手洗いに行くと五条先輩は天を仰ぎ、夏油先輩は頭を抱えている。
沈黙にも近い空気が少しばかり流れ、夏油先輩が顔を上げる。
「私も下の名前で呼んでもいいかい?」
「はい。それは全然…」
「ありがとう。なまえ」
許可を得るとサラッと下の名前を呼ばれ、あまりにもイイ声に頬が上気する。
いま思えば男の人から下の名前を呼ばれるのは久々だ。
灰原くんも七海くんも苗字呼びだし、呪術高専女子会メンバーしか下の名前で呼び合ってない気がする。
「…あれ?」