第56章 五/夏/七/甚/直 妊娠しないと出れない電車-陸-
「…そっか。だよな」
腕に少し力がこもったがスルっと解かれ、落ち込んだ声が聞こえて思わず振り向いてしまう。
「また隠れて泣かれちゃ俺も困る。泣きたくなったら俺がいつでも話聞いてやるから」
「…!ありがと…、ございます…」
伏黒さんの温かい言葉に涙腺が緩む。
好きで泣いているわけじゃないのに感情が高ぶると涙があふれ、自分で拭う前に伏黒さんの指が触れる。
「一人になるなよ。直哉と二人きりになったら何をされるか…」
「あはは…。気を付けます」
「ホントに分かってんのかよ」
伏黒さんは呆れた顔をして頬をつねってくる。
…直哉くんに気を付けろ、か。
そもそも美しさも気品さもないわたしなんかに興味はないだろうし、直哉くんが自ら接触してくるとも思えない。
むしろ伏黒さんの時のように閉じこめられたら大変だ。
そして申し訳ないとさえ思う。
解除するにはセックスしなければならないのだから。
「引き留める真似して悪かったな。待たすのは得意だけど待たされるのは慣れてねぇから、そこんとこよろしくな」
「はい」
伏黒さんが思いやりのある人でよかった。