第54章 五/夏/七/甚/直 妊娠しないと出れない電車-肆-
「俺も話せてよかった。女の子ひとり獣の檻に放り込まれて気になってたからな」
「あは、ははは…」
獣の檻と言われ、似たようなことを思っていたのでカラ笑いが出てしまう。
「それにしてもアイツら随分長風呂だな」
「ホントですね。…あれっ?」
一番奥の座席にいたから気付かなかった。
向こうの扉に視線を向けると夏油先輩がホッとした表情をみせ、口を動かしているがちっとも聞こえない。
「え、あれ?嘘っ。開かなくなってる?」
開いたはずの扉が閉まっている。
後ろから伏黒さんの腕が伸び、血管が浮くほどの力が加わるも扉はビクともしない。
「参ったな。完全に遮断されたみたいだ」
「え。なんで」
「さあ?俺にもわからん」
何でも知っていそうな伏黒さんは肩をすくめる。
こちらからも向こうからも開けられなくなってしまった扉。
一体、この閉ざされた扉をどうしろと?
「明日になれば状況が変わってる可能性もある。今日はもう遅いってことで、おやすみの挨拶して寝ようぜ」
伏黒さんはわたしの頭をぽんぽんした後、大きな欠伸をしながらロングシート式の座席に寝てしまう。
「え、えっと、何か伝えなきゃ…」