第54章 五/夏/七/甚/直 妊娠しないと出れない電車-肆-
「直哉くんって素行悪いんですか?」
「どうしてそう思う?」
「そんな驚き方をされたので…」
禪院家のイメージはわたしの中でも好意的ではない。
次期当主を口にする直哉くんさえ第一印象は良くなかったし、逆に家を出て行った伏黒さんには当初から強い興味を持ってしまっている。
聞き返すような言い回しをすると伏黒さんは遠い目になる。
「久々に会ったがきちんと家系に染まり切ってる。エリート思考、男尊女卑、それ以外は落伍者扱い。女を見下す男が本当にいいやつって言えるか…?」
「それは…」
術式相伝は百歩譲って致し方ないと思う。
けれど女性だからという理由だけで虐げられるのはあまりにも理不尽すぎる。
「だからあんな家捨ててやった。俺は落伍者だからな」
「!?…そう、だったんですか…」
伏黒さんから落ちこぼれ要素がまったく拾えない。
ただ何となく唇の横を怪我していたり、どことなく憂いを帯びた表情が過去との繋がりを意識させる。
つらい話には深入りはせず、伏黒さんが身の内話をしてくれたのでいくらか話しやすい気持ちになった。
わたしが皆に話せていない過去の出来事。
「わたし、過去に同級生や先生、保護者の皆の命を…見殺しにしたんです」
「…!どういうことだ?」
「中学最後の卒業式、ずっと見ないフリをしてきた呪霊の巣箱が壊れてしまって…」