第54章 五/夏/七/甚/直 妊娠しないと出れない電車-肆-
「…わからない…です…」
灰原くんや七海くんが最も身近にいる男の子だ。
でもこれは何だか自分自身の問題な気がして、聞いてもらうのも気が引ける。
「なら今からでいい。俺に話しな。アイツら相手じゃ話しにくいだろ?」
「…」
ゆったりとした心地の良いトーン。
夏油先輩とは違う包容力。
頼りたいっていうよりもこの人に甘えたいって思う気持ちが不思議と沸いて出てくる。
「先輩達には言わないって約束してくれますか…?」
「ああ。誰にも言わねぇよ。いう相手も居ないしな」
「?…あの、ご結婚されてたんじゃ」
禪院家出身でありながら伏黒の姓を名乗る。
まさしくお嫁さんがいないと成り立たない姓なのだが。
「少し前にな…。まあ俺の話はいい。直哉は五条家のお坊ちゃんよりあくが強い」
伏黒さんは幼い頃の五条先輩と直哉くんを知っている口ぶりだ。
それ以上言葉を続ける様子はなく、思ったことを口にする。
「…そんなに悪い人には見えないんですけど」
「あれでか」
わたしの発言に驚きを隠せず伏黒さんは目をむく。
直哉くんの発言には傷付けられたが内心感じていたことを鋭く突かれただけにすぎない。