第54章 五/夏/七/甚/直 妊娠しないと出れない電車-肆-
両親は見えるわたしを気味悪がった。
見えないフリをしたら可愛がってもらえた。
「それ、お前のせいじゃねぇだろ」
「そう思いたいんですけど…、わたしはその存在を認識していました。見ないフリをしなければ目の前で沢山の命が奪われることはなかった…。戦えるのに皆に気味悪がられなくて一緒に逃げた。皆に責められる気がして力を隠した。皆、呪いと対峙なんてしたことないから見えるようになっても何もできなくて、次々と地面に転がっていったんです…」
親に見捨てられない子どもになりたかった。
"あなたのため"だと親がそう言ったから。
アブナイものには関わっちゃいけない。
コワイものには関わっちゃいけない。
関わらないように誰にも言わないように我慢して、見て見ぬフリをした結果、不安定な生得領域に閉じ込められ招いた大量殺人。
夜中になると、あれがしたかった…これがしたかった…、血まみれの顔で夢を語ってくる同級生達。
彼らの幸せや希望があふれる未来を奪い、失われてやっと呪いと向き合った。
「術師になっても償いになるとは思っていません。皆の明るい未来を奪っておいて、わたしなんかが…妊娠なんて、とてもっ…」
この体は妊娠できない気がする。
妊娠することはとても幸せなことだと思っている。
わたしに幸せは許されない。
ずっと皆が見てるから。