第54章 五/夏/七/甚/直 妊娠しないと出れない電車-肆-
「ちゃんと…妊娠できるかな…」
自分のお腹を撫でてみるも体の事情がわからない。
帳の中で多くの呪いを祓い続けていた。
冷たいけれど生きた肉塊のような生々しい感覚。
そんな負の感情が塊になった呪いから臭くて、汚くて、腐ったような返り血を浴びることもあった。
「赤ちゃん…きてくれるかなぁ…」
わたしはごく普通の女の子じゃない。
見える側の人間で戦うことを選んだ呪術師だ。
一時の日常のなかで平穏は訪れることはあっても呪いからは逃れられない。
「…ひっく…」
責任を取ると言ってくれた先輩達に迷惑をかけてしまうかもしれない。
自分がこんな体に生まれてきてしまったから。
そんなどうしようもない不安が唐突に沸き上がり、誰もいない車両で声をひそめて涙を隠す。
「ごめんな。うちのいとこが気に障ること言ったんだろ」
「…!?」
まるで気配がなかった。
見られたら気まずくなるのに驚きのあまりで顔を上げてしまい、伏黒さんと思いっきり目が合ってしまう。
「一人で泣くな。こういう時、男を頼っていいんだぜ?」
伏黒さんに優しく頭を撫でられるも目線は下を向く。