第51章 五/夏/七/甚/直 妊娠しないと出れない電車-壱-
「それ正論?俺、正論嫌いなんだよね」
「…何?」
夏油先輩のこめかみに血管が浮く。
この二人が喧嘩したら誰も止められない。
五条先輩は胸ぐらを掴んだ手を振り払うと、捻り上げられた制服をなおして夏油先輩をさらに挑発する。
「俺ばっか悪く言うけどさ、回りくどく女から言わせるほうが腰抜けだろ。自分から誘えねぇくせに他人のせいにしてんじゃねーよ」
「外で話そうか。悟」
「だから出れねぇんだよ」
夏油先輩と五条先輩は立ち上がってポケットに手を突っ込み、お互い睨み合っている。
この狭い電車内で一戦、やり兼ねない勢いだ。
「お二人とも車内ではお静かに。死人になっても出られる保証はありません」
七海くんは両手をパンっと叩き、空気を換える。
わたしはその勢いに乗っかって五条先輩はチラッとだけ一瞥して、夏油先輩だけでも落ち着いてもらおうと上目遣いを向ける。
「そうです。呪力がないってことは傷の治りも遅いかもしれませんし…」
「…すまない。少し頭に血が上ってしまったよ」
一人が臨戦態勢を解けば自然と二人は冷静になったように腰を下ろし、その視線がグイっとわたしに向けられる。
今ならわかる。
肉食動物に狙われる小動物達の気持ちが。