第51章 五/夏/七/甚/直 妊娠しないと出れない電車-壱-
荷棚を見やると先輩達の頭上にも自分達の頭上にもあちらこちらにボックスがあり、それにはすべて同じ小瓶が入っていたと説明される。
「ここにあるのはバリアフリーのトイレと洗面所、あとは荷棚にあった大量の小瓶。水は確保できるだろうが食糧がねぇ。ポケットに入ってた携帯も財布も全部消えちまってる」
「あっ!…ハンカチ…」
何故だかポケットには今日持ってきたハンカチが入っていた。
食べ物じゃなくてガッカリする。
「俺らが転送されたのはちょうど昼時。ラーメン屋の暖簾くぐる前に匂いだけ嗅いで超腹ペコ状態」
「みょうじと七海はディ〇ニーランドで何か食べたのかい?」
「いえ…」
「わたしはチュロスを一口だけかじったような…」
口の中に広がるはちみつの味。
それを胃に流し込んだと言われたら記憶がおぼろげになってしまう。
「つまり時間との勝負だ。お腹を空かした状態で子作りしたくねぇだろ?」
「うっ…」
味わい損ねたチュロスを思い出して、きゅるるっとお腹で返事をしてしまう。
我慢してもまたきゅるるっと鳴るお腹。
「みょうじは食べるのが好きですからね」
「おねがい!言わないで!恥ずかしいぃぃ…」
どうしてわたしのお腹だけこんなに鳴るんだろう。
七海くんも腹ペコなのは同じはずなのに。