第51章 五/夏/七/甚/直 妊娠しないと出れない電車-壱-
そこに流れる一つ一つの文字。
黒い電光掲示板のなかを滑らかにオレンジ色のデジタル文字が横切っていく。
不安だけじゃない。
恐怖にも似た音がドクン、ドクンと跳ね上がっていく。
“妊娠しないと出れない電車”
とっさに視線を下げた。
混乱している。理解できないわけじゃない。
理解したからこそ自分の身が締め付けられるのを感じた。
…ど、どどどどうしよう。
何をすればいいの?
にんしん?
妊娠しないと出られないの?
それに今やっと気が付いた。
わたし以外、全員男性だ。
術師の大半は男性で、高専内もその感覚だったから女性の割合を気にしていたのなんて入学当初くらい。
一般人として生きていた頃は、特に思春期といえる時期だったから男の子女の子と常に意識していたのに。
それだけ色濃く術師の世界に染まった影響ともいえる。
この電車内に妊娠できそうな人物はわたし以外にいるだろうか。
誰もいなければそれはつまり、わたしが誰かとセッ…して…
「…」
あたりを振り返ると異様に静かだった。