第51章 五/夏/七/甚/直 妊娠しないと出れない電車-壱-
「それで貴方は?」
「禪院家次期当主の直哉。年は悟くんの一個下。階級は特別一級や。以後よろしゅう」
「よろしくお願いします。で、向こうの方は?」
夏油先輩は向こうの座席に横たわっている男性に視線を投げる。
スエットの上下からすでに漂っているが、クワッとつられそうな大きなあくびをする何ともやる気のない大人。
「僕がリスペクトしてる甚爾くん♡今は家出てほっつき歩いてるけど僕のいとこやで」
「なるほど。禪院家の人間でしたか」
夏油先輩のおかげで二人の正体がわかったが、まさか二人とも禪院家出身だったとは。
それに中にはあんな人もいるのだと少し興味が沸いてしまう。
すると夏油先輩の言葉に反応するように低い声が鳴った。
「もう禪院じゃねぇ。婿に入ったんでな」
「はあああっ!?いつ、どこで、誰と!?」
「うるせーな。今は伏黒だ」
伏黒さんはそれだけ言うと目を瞑ってしまう。
このわけもわからない状況で「寝る」を選択するだなんて余程肝が据わっているのだろう。
直哉くんはキャンキャン吠えながら伏黒さんを起こそうとするも、しっしと手をやられている。
「…?」
何か自分でも手がかりが見つからないかと車両のなかを観察していると、電光掲示板が目に入る。