第51章 五/夏/七/甚/直 妊娠しないと出れない電車-壱-
壁を思いきり蹴った音にはビックリしたが、あのひと蹴りで苛立ちが治まったのならわたしの心臓が縮むのなんて安いものだ。
「それより悟。あの金髪と面識があるみたいだけど誰?」
「禪院とこのガキだよ。名前は知らね」
「直哉やボケェ!丁寧に自己紹介したやろが!」
半分ほど巻き舌で、関西弁を口にする禪院直哉という男の子は怒涛の勢いで吠えてくる。
あの五条先輩に楯突く度胸。
そして関西人はテレビ番組の中で面白いイメージが定着していたのだがこの人の第一印象は間違いなく「怖い人」だ。
ふぅ、と直哉くんは息を吐き出すと先ほどとは違う声色を出した。
「初対面やったらまず自己紹介が基本やろ。君は有名やから知ってるで。特級術師の夏油傑くん」
「どーも」
「んで、そっちの雑魚二人は?」
こちらに振り向くと明らかに冷たい視線を浴びた。
今まで禪院家の人達と関わったことはないが歴史が古いこともあり噂は知っていた。
呪術師家系の名家・御三家にあたる禪院家はとにかく身内にも他人にも厳しい。呪力がなければ冷遇され、虐待は日常茶飯事。禪院家ではない者は呪術師扱いされず、歯向かう意思を見せれば消されるとか何とか。
命が惜しいならなるべく関わらないようにしろと担任教師から言われていたのに、こんな密室空間で出会ってしまうなんて。