第46章 夏油傑 親友の彼女-玖-
なまえは高専入学以前からオカルト研究家の父親と各地を周り、その一環で人助けもしていた。
助けを求めるものには手を差し伸べ、その地に残りたいものには連絡先を渡し、その活動中に父親を亡くしてしまったためなまえは保護が条件として呪術高専を選んだ。
少女はぽつりぽつりと口に出し、人殺しを計画した自分を責めて謝罪の言葉を口にする。
「想像で人を殺しても何もおかしくはないよ。
本当に消し去りたいものは生きている限りなくならない。
呪術を使うようになれば自ずと見えてくるはずさ」
「それじゃあ…そこへ行っても絶望しか…っ」
「命が散るまでに簡単に片付く問題ではないけれど私達は変革を起こすために活動している。呪いの連鎖を祓い続けるだけじゃなく、まずは頭を入れ替えるためにね」
悟は全面的に勧誘活動を応援しているわけではない。
「呪いが見えたところで話になんない」とキッパリ口にしているからだ。
何だかんだ手を回す暇はないと言いつつも御三家の力をフル活用して、小さな子達や呪詛師になりかけた者の居場所をつくってくれた。
私一人で唱えても喧嘩になっていただろうし、こういう時、なまえのような存在が偉大で頼りになる。
弱者を守りたい私達の理念とは異なり、
悟は後進のために強者を育てる姿勢を崩してはいない。
生き抜く術として後進を育てると言い方を変えても
やはり危険な目には合わせたくない。
可愛い教え子をもったら尚更だ。
術師の未来を守りたいならその責任を果たすべきなのだろうが、私はまだ割り切れないでいる。
果たしてフリーの術師として俯瞰して生きるのが間違えかはわからないが、なまえは焦らないでいいと言ってくれた。
皆、悟のようには生きられないと。
なぜなら私達は生きるために呪術を使うが、悟は呪術を楽しんで使っている節がある。
当時からそれはひしひしと感じていた。
互角の格闘技で手合わせするたびに食われているような感覚。
悟は最強でありながら変態的強さを持っていた。
納得したくなかったが、変態なら仕方ないと思ってしまう。
だからもし悟がフルパワーで戦う時がきたら、私達凡人は巻き込まれない場所でしっかり応援を送るべきじゃないか、って。