第44章 夏油傑 親友の彼女-漆-
「あっ!夏油さん!お疲れさまです!」
「灰原か。何か飲む?」
任務がひと段落して高専に戻ると人懐っこい笑みを浮かべた灰原が顔を出す。
灰原は遠出の任務をまるで修学旅行が待ち切れない子どものように話してくれると、そこへ背の高い女性がやってきた。
「君が夏油くん?どんな女が好みかな?」
「どちら様ですか」
「自分はたくさん食べる子が好きです!」
「…」
私に向けた質問だったが灰原はハツラツとした声で答える。
根が素直なのは可愛いが心配になる。
「で、夏油くんは答えてくれないのかな?」
「まずはあなたが答えてくださいよ。どちら様?」
態度からして只者ではないのはわかった。
灰原が席を外し、彼女は特級術師の九十九由基だと名乗る。
「本当は五条くんにも挨拶したかったんだけど間が悪かったようだ。星漿体のことは気にしなくていい。あの時、もう一人の星漿体がいたか、すでに新しい星漿体が産まれたのか。どちらにせよ天元は安定しているよ」
「…でしょうね」
あれから一年が経ったのか。
忘れていたとは言わないが、いや…最近はなまえに夢中になり過ぎて考えなくなっていた。
あの頃よりも思い詰めていたはずの心が安定している。
「これからは特級同士、三人仲良くしよう。…ん?彼女?」
九十九が席を立ち上がるとちょうどなまえが顔を出し、ペコッとお辞儀をする。
いつもならなまえを見た瞬間、顔がほころんでしまうのにこの時ばかりは。
「ごめん。話し中だった…?」
「もう終わるところだよ。悟には私から言っておきます」
「おっいいね。その隠したがる感じ。若いねぇ」