第34章 七海健人 夫婦交換しよ?-弐-
「鍵は…開いてますね。入りましょう」
「お邪魔しまーす…」
部屋に入るとテレビは付けっぱなしで乱れて脱いだような浴衣が散らばっている。
「え?」
目を疑いたくなる光景だった。
今日の宿泊先は貸し切り風呂がある客室で、ガラス扉の向こうからわずかに見え隠れする影がふたつ。
「…ぁあっ!もっと!すごいわ陽くんっ…
もっとちょうだいっ…!」
陽があっちにいる。
もうひとつ乱れて甲高い声を出している女性は…
「出ましょう。ここで止めに入れば
陽くんは一生自分を責めることになる」
立ち尽くしたわたしの腕を強く引っ張る。
部屋に戻ってからも混乱と動揺で体の震えが止まらない。
「…なまえさん。私から申し上げるのは酷ですが
おそらく誘ったのは私の妻でしょう。
夫婦交換をだしに使ったのならすんなり合点がいく」
「どう…して…ですか…?」
「私を誘えば抱き潰される恐れがある。
だから陽くんを誘った。心優しいなまえさんなら許してくれるなどと言ったんでしょう」
…静先輩が陽を誘った。
わたしの気持ちを知っているのに…?
裏切り行為にも近い先輩の行動が理解できない。